【カルメン】を詠う 　　メリメ作 CARMEN DE PROSPERO MERIMÉ

～　純情な青年が奔放な女カルメンに翻弄され、彼女の情夫を  　　　殺し、ついには カルメンまでも殺してしまう悲しき物語　～

＜ボヘミア女＞ ¡GITANA!

＊　”ヒターニャだ” 　　　　　　という町の人々の声が 　　　　　　　　　　　　突然聞こえきたり 　　　　　　　　（ボヘミア ・ ヒターニャ ・ ジプシー） 　　　　　　　　　　　　¡Allí va la gitana! 　　　　　　　　se oye de pronto decir 　　　　　　　　a las gentes de la ciudad. 26 　　＊　あの女を 　　　　　　あのカルメンをわれは見たり 　　　　　　　　　　忘れようとて忘れられぬ 　　　　　　　　　　　　Y yo la miré, 　　　　　　　　la miré y aunque quiera 　　　　　　　　no la puedo olvidar. 27 　＊　カルメンの赤き下裳より 　　　　 　　白い絹のくつ下が 　　　　　　　　　　むき出しに見える 　　　　　　　　　　　　Bajo la falda roja de Carmen 　　　　　　　　se dejaban ver 　　　　　　　　las blancas medias de seda. 28 　＊　カルメンの履きし 　　　　　　白いくつ下には 　　　　　　　　　いくつもの穴が開いていたり 　　　　　　　　En las medias 　　　　　　　　que Carmen se ponía 　　　　　　　　más de un agujero 　　　　　　　　se veía. 29 　＊　カルメンの 　　　　　　赤き可愛らしい靴は 　　　　　　　　　濃い紅のリボンで結ばれたり 　　　　　　　　　　　　Carmen calzaba 　　　　　　　　unos hermosos zapatos 　　　　　　　　de color rojo, 　　　　　　　　atados con unas cintas 　　　　　　　　rojo subido. 30 　　＊　カルメンは 　　　　　　ショールを広げ肌着につけし 　　　　　　　　　アカシアの花を見せびらかしぬ 　　　　　　　　Carmen 　　　　　　　　su mantilla abría, 　　　　　　　　las flores de acacia 　　　　　　　　sobre la blusa exhibía. 31 　　＊　カルメンは 　　　　　　口の端にもアカシアの花を 　　　　　　　　　　　一輪くわえていたり 　　　　　　　　　　　　Carmen también 　　　　　　　　entre los labios 　　　　　　　　un ramito de acacia 　　　　　　　　llevaba prendido. 32 　＊　カルメンは 　　　　　　牧場の若き牝馬の如く 　　　　　　　　　　　腰を振りつつ近づき来たり 　　　　　　　　　　　　Carmen se acercaba 　　　　　　　　moviendo las caderas 　　　　　　　　como si una joven 　　　　　　　　potranca fuera. 33 　　＊　わが故郷で 　　　　　　カルメンを見れば 　　　　　　　　　　みな肝をつぶし十字を切るらん 　　　　　　　　En mi pueblo 　　　　　　　　si a Carmen 　　　　　　　　la gente viera, 　　　　　　　　quedaría estupefacta, 　　　　　　　　la señal de la cruz 　　　　　　　　hiciera. 34 　＊　セビーリャの男たちは 　　　　　　カルメンの風体に 　　　　　　　　　　お世辞を浴びせたり 　　　　　　　　Los hombres de Sevilla 　　　　　　　　bañaban en piropos 　　　　　　　　la figura de Carmen, 　　　　　　　　su maravilla. 35 　　＊　カルメンは 　　　　　　お世辞を言いし男たち 　　　　　　　　　一人ひとりに流し目送りぬ 　　　　　　　　Carmen, 　　　　　　　　a los hombres 　　　　　　　　que la miraban 　　　　　　　　respondía 　　　　　　　　con una mirada. 36 　　＊　カルメンの 　　　　　　握りこぶしを腰に当てたる仕草は 　　　　　　　　　まさにボヘミア女なりき 　　　　　　　　Carmen 　　　　　　　　se adornaba 　　　　　　　　con el puño en la cadera 　　　　　　　　como pura gitana 　　　　　　　　que era. 37 　＊　われは 　　　　　　カルメンの図々しさを一目みて 　　　　　　　　　　いやな女と思いぬ　　 　　　　　　　　　　　　Yo 　　　　　　　　cuando vi 　　　　　　　　el descaro de Carmen, 　　　　　　　　no me gustó nada. 38 　＊　カルメンは 　　　　　　突然われの前に来て立ち止まり 　　　　　　　　　声をかけぬ 　　　　　　　　Carmen, 　　　　　　　　sin yo esperarlo, 　　　　　　　　se plantó ante mí, 　　　　　　　　me dirigió la palabra. 39 　＊　カルメンは 　　　　アンダルシア風に言いぬ 　　　　” ちょいと　兄さん　その鎖をくださいな ” 　　　　　　　　　Carmen, 　　　　　　　　　a la manera andaluza 　　　　　　　　　me dijo: 　　　　　　　　　“ ¡ Oye, mi alma! 　　　　　　　　　Dame esa cadenita, 　　　　　　　　　simpatico” 40 　＊　われは答えぬ 　　　　　”この鎖には 　　　　　　　　火坑針をさげなければなんので” 　　　　　　　　Yo le respondí: 　　　　　　　　“Esta cadenita 　　　　　　　　es para sujetar 　　　　　　　　la baqueta de mi fusil. 41 　＊　カルメンは 　　　　　　笑いつつ叫びぬ 　　　　　　　”男のくせにレースの編み物するの” 　　　　　　　　Carmen riendo, gritó: 　　　　　　　　¡Vaya, 　　　　　　　　el señor hace bolillos! 42 　　＊　カルメンの 　　　　　　言いしことを耳にしたる者は 　　　　　　　　　みな笑いくずれたり 　　　　　　　　Todos aquellos que escuchaban 　　　　　　　　lo que Carmen decía 　　　　　　　　se echaron a reir. 43 　＊　われ 　　　　　顔の赤くなるのを感じたるも 　　　　　　　　　言葉が出ぬので答えられぬ 　　　　　　　　Yo enrojecer me sentí, 　　　　　　　　no encontré 　　　　　　　　palabras que decir. 44 　　＊　カルメン 　　　　つづけて言いぬ 　　　　　　　”ショール用に黒いレースを 　　　　　　　　　　　　　　編んでくださいな”　　　 　　　　　　　　Carmen continuó diciendo: 　　　　　　　“Vamos, mi alma, 　　　　　　　　hazme un rehilete 　　　　　　　　de puntilla negra 　　　　　　　　para mi mantilla”. 45 　　 　＊　カルメンは 　　　　　　口にくわえしアカシアの花を 　　　　　　　　　われのみけんへ投げつけぬ 　 　　　　　　　　　　　　Carmen 　　　　　　　　tomó con los dedos 　　　　　　　　la flor de acacia 　　　　　　　　que llevaba entre los labios 　　　　　　　　y me la lanzó al entrecejo. 46 　　＊　カルメンの 　　　　　　投げつけし花は 　　　　　　　　　鉄砲の玉の如くわれに当たりぬ 　　　　　　　　　　　　Las flores 　　　　　　　　que Carmen lanzaba 　　　　　　　　como balas de fusil 　　　　　　　　me acertaban. 47 　 　　＊　われは 　　　　　　板の如く堅くなり 　　　　　　　　　身動きもできずに立ちつくしたり 　　　　　　　　Yo, 　　　　　　　　engarrotado como un madero, 　　　　　　　　permanecí inmóvil. 48 　＊　カルメンは 　　　　　工場の中に消え 　　　　　　　われは穴があれば入りたいと思いぬ 　　　　　　　　Carmen desapareció 　　　　　　　　por los pasillos de la fábrica. 　　　　　　　　De haber un agujero 　　　　　　　　allí me hubiera metido. 49 　　＊　アカシアの花が 　　　　　われの両足の間の 　　　　　　　　　　地面に落ちていたり 　　　　　　　　La flor de acacia 　　　　　　　　entre mis pies 　　　　　　　　caida en el suelo estaba. 50 　　＊　われは 　　　　　仲間が気づかぬうちに 　　　　　　　その花を上衣の中にしまいこみぬ 　　　　　　　　Yo, 　　　　　　　　antes de que los compañeros 　　　　　　　　se dieran cuenta 　　　　　　　　puse la flor 　　　　　　　　en el interior 　　　　　　　　de mi chaqueta. 51 　＊　魔がさしぬ 　　　　　このことが 　　　　　　　われの最初の失敗となろうとは 　　　　　　　　　　　　Llevado por el impulso 　　　　　　　　nunca pensé 　　　　　　　　que pudiera ser 　　　　　　　　mi primer error. 52 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　彷徨い人　中島孝夫

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