『 アルハンブラ物語 ～ ２ 』 『 CUENTOS DE LA ALHAMBRA ~ 2 』　Washington Irving ワシントン・アービング 著　平沼孝之 訳

≪アフメッド・アル・カーミル王子の伝説 ～ 恋の巡礼者 ～≫ ～第2章～ Leyenda del Príncipe Ahmed al Kamel O peregrino del amor.

＊　賢者は 　　　　　　王子を退屈させない 　　　　　　　　気晴らし科目を思いつきぬ 　　　　　　　　El sabio recordó 　　　　　　　　una materia magnífica 　　　　　　　　que no aburriría al Príncipe. 55 　＊　賢者は 　　　　　ユダヤ人学者から学びし 　　　　　　　　鳥語を話すことができたり 　　　　　　　　El sabio hablaba 　　　　　　　　el lenguaje de los pájaros. 　　　　　　　　Lo había aprendido 　　　　　　　　de un estudioso judio. 56 　＊　王子は 　　　　　鳥語と聞き眼を輝かせ 　　　　　　　　鳥語の習得に取り組みたり 　　　　　　　　Al escucharlo 　　　　　　　　al Príncipe le brillaron los ojos, 　　　　　　　　comenzó el estudio 　　　　　　　　del lenguaje de los pájaros. 57 　＊　王子は 　　　　　たちまちのうちに鳥語を 　　　　　　　自在に使えるようになりぬ 　　　　　　　　　　　　El Príncipe 　　　　　　　　en un santiamén 　　　　　　　　fue maestro 　　　　　　　　en el lenguaje de los pájaros. 58 　＊　王子は 　　　　ことばを交わし合える鳥の友人達を 　　　　　　持つことになりたり 　　　　　　　　　　　　El Príncipe 　　　　　　　　tenía amigos pájaros 　　　　　　　　con los que 　　　　　　　　poder conversar. 59 　＊　王子にとりて 　　　　　離宮の孤塔での生活は 　　　　　　　孤独ではなくなりぬ 　　　　　　　　　　　　Para el Príncipe 　　　　　　　　la vida solitaria 　　　　　　　　de la torre del palacio 　　　　　　　　dejó de serlo. 60 　　＊　王子の 　　　　　最初の友人は胸壁の 　　　　　　　　割れ目に棲むタカなり 　　　　　　　　El primer amigo del Príncipe 　　　　　　　　fue un halcón que vivía 　　　　　　　　en una grieta de las almenas. 61 　＊　王子には 　　　　　タカは天空の海賊かと思われ 　　　　　　　　好きになれなかりけり 　　　　　　　　　　　　El Príncipe consideró 　　　　　　　　que el halcón era 　　　　　　　　un pirata del aire, 　　　　　　　　no le gustaba. 62 　＊　王子が 　　　　次に友人となりしは 　　　　　智恵者然と構えしフクロウなり 　　　　　　　　　　　El siguiente amigo 　　　　　　　del Príncipe 　　　　　　　fue un buho, 　　　　　　　un pájaro de aspecto 　　　　　　　muy sabio. 63 　＊　王子は 　　　　フクロウの勿体ぶりた 　　　　　学者気取りを低俗に思いぬ 　　　　　　　　　　　　El Príncipe pensó 　　　　　　　　que la actitud del buho 　　　　　　　　dándose importancia 　　　　　　　　de científico 　　　　　　　　era muy vulgar. 64 　＊　王子が 　　　　　知り合いになりたるコウモリは 　　　　　　　話を茶化し楽しむばかり 　　　　　　　　El murciélago 　　　　　　　　que conoció el Príncipe 　　　　　　　　se burlaba de todo 　　　　　　　　sólo se divertía. 65 　＊　王子は 　　　　ツバメと意気投合せしも 　　　　　見せかけの物知りとわかりぬ 　　　　　　　　El Príncipe 　　　　　　　　aunque en principio 　　　　　　　　congenió con la golondrina 　　　　　　　　entendió que sólo conocía 　　　　　　　　las cosas superficialmente. 66 　＊　王子は 　　　　鳥たちと話していても 　　　　　心に感じるものはなかりけり 　　　　　　　　　　　　El Príncipe 　　　　　　　　aunque hablaba con los pájaros 　　　　　　　　no sentía nada en el corazón 67 　　＊　王子は 　　　　次第にもとの孤独な生活に 　　　　　　戻りてしまいたり 　　　　　　　　　　　　El Príncipe 　　　　　　　　poco a poco 　　　　　　　　volvió de nuevo 　　　　　　　　a su vida soliaria. 68 　＊　冬が去り 　　　　　花が咲き緑が萌え 　　　　　　　香しい春となりぬ 　　　　　　　　El invierno se fue 　　　　　　　　abrieron las flores 　　　　　　　　el verdor se expandió 　　　　　　　　llegó la perfumada primavera. 69 　＊　鳥たちは 　　　　つがいとなり巣作りをはじめる 　　　　　　幸せな季節なり 　　　　　　　　　　　　Los pájaros 　　　　　　　　se emparejan 　　　　　　　　comienzan a construir 　　　　　　　　sus nidos 　　　　　　　　es una estación feliz. 70 　＊　幸福な 　　　　歌や旋律が離宮の庭園や森に 　　　　　　沸き起こりぬ 　　　　　　　　　　　　Los jardines y los bosques 　　　　　　　　del palacio bullían 　　　　　　　　en felices canciones y melodías 71 　＊　王子の 　　　　　耳に 恋 ～ 恋 ～ 恋 の 　　　　　　　大合唱が聞こえてきたり 　　　　　　　　El Príncipe escuchaba 　　　　　　　　un coro cantando: 　　　　　　　　¡”Amor, Amor, Amor!” 72 　＊　王子は 　　　　つぶやきぬ ＂恋とは何だろう 　　　　　　ぼくは何も知らない＂ 　　　　　　　　El Príncipe susurra: 　　　　　　　　“¿Qué es el amor? 　　　　　　　　Yo no sé nada” 73 　＊　王子は 　　　　　友人のタカに尋ねたり 　　　　　　　＂恋とはなんなのか＂ 　　　　　　　　El Príncipe preguntó 　　　　　　　　a su amigo el halcón: 　　　　　　　　“¿Qué es el amor?” 74 　　＊　タカは 　　　　答えぬ＂わしの如き 　　　　　　天空の戦士にではなく＂ 　　　　　　　　El halcón respondió: 　　　　　　　　“No me preguntes a mí, 　　　　　　　　yo soy un guerrero 　　　　　　　　de los cielos” 75 　　＊　＂下界の 　　　　　平和な鳥どもにたずねよ 　　　　　　われらには恋など無縁なのだ＂ 　　　　　　　　　　　　Pregunta 　　　　　　　　a los pacíficos pájaros 　　　　　　　　de allí abajo, 　　　　　　　　el amor no tiene 　　　　　　　　relación con nosotros. 76 　　＊　王子は 　　　　フクロウに＂恋とはどんなものなのか＂ 　　　　　　教えて欲しいと頼みぬ 　　　　　　　　　　　　El Príncipe 　　　　　　　　pide al buho 　　　　　　　　que le enseñe, 　　　　　　　　“¿Qué es amor?” 77 　＊　フクロウ 　　　　言いぬ＂わたしは哲学者なので 　　　　　　恋は関心の外でして＂ 　　　　　　　　　　　　El buho dice: 　　　　　　　　“Yo soy filósofo, 　　　　　　　　el amor está fuera 　　　　　　　　de mi interés” 78 　＊　王子は 　　　　　コウモリのところへ出向いて 　　　　　　　同じ質問をしぬ 　　　　　　　　El Príncipe 　　　　　　　　se dirige a donde 　　　　　　　　vive el murciélago, 　　　　　　　　le hace la misma pregunta. 79 　＊　コウモリは 　　　　　鼻にしわを寄せ言いぬ 　　　　　　　＂恋など 私には関係ない＂ 　　　　　　　　El murciélago 　　　　　　　　arrugando la nariz 　　　　　　　　dice: 　　　　　　　　“El amor y esas cosas 　　　　　　　　no tienen nada que ver 　　　　　　　　conmigo” 80 　＊　王子は 　　　　　塔のてっぺんを旋回している 　　　　　　　　ツバメを呼び止め問いぬ 　　　　　　　　El Príncipe 　　　　　　　　pregunta a la golondrina 　　　　　　　　en el momento en que volaba 　　　　　　　　alrededor de la torre. 81 　　＊　ツバメ 　　　　　答えぬ＂私は公用で忙しく 　　　　　　　恋なんて知りません＂ 　　　　　　　　La golondrina responde: 　　　　　　　　“Yo estoy tan ocupada 　　　　　　　　que no sé nada 　　　　　　　　de eso que llaman amor” 82 　＊　王子は 　　　　落胆し途方に暮れるも 　　　　　　好奇心はつのるばかりなり 　　　　　　　　　　　　El Príncipe quedó 　　　　　　　　desconcertado y perplejo, 　　　　　　　　pero la curiosidad 　　　　　　　　quedó más estimulada 　　　　　　　　por la dificultad. 83 　　＊　王子は 　　　　尋ね来た老師に問いぬ 　　　　　＂恋とはどのようなものなのか＂ 　　　　　　　　　　　　El Príncipe pregunta 　　　　　　　　al viejo maestro 　　　　　　　　que vino a visitarlo: 　　　　　　　　“¿Qué es el amor?” 84 　＊　老師は 　　　　王子に問いぬ＂王子様は そのような言葉を 　　　　　どこで聞き覚えられしか＂ 　　　　　　　　　　　　El anciano maestro 　　　　　　　　pregunta al Príncipe: 　　　　　　　　“Mi Príncipe ¿dónde habéis 　　　　　　　　escuchado esa palabra?” 85 　＊　王子は 　　　　老師の手を取りて 　　　　　　塔の窓辺へと連れて行きぬ 　　　　　　　　　　　　El Príncipe 　　　　　　　　coge de la mano 　　　　　　　　al anciano maestro 　　　　　　　　y lo lleva hacia las ventanas 　　　　　　　　de la torre. 86 　＊　老師が 　　　　　耳を澄ませば ナイチンゲールが 　　　　　　　恋の痛みを歌いていたり 　　　　　　　　Al prestar oido 　　　　　　　　el anciano maestro 　　　　　　　　el ruiseñor cantaba 　　　　　　　　penas de amor. 87 　　＊　老師は 　　　　王子に言いぬ＂この誘惑の調べに 　　　　　　耳をお塞ぎくだされ＂ 　　　　　　　　El anciano maestro dice: 　　　　　　　　“Cerrad los oidos 　　　　　　　　a esa seductora palabra” 88 　＊　＂王子様が 　　　　　この恋なるものに 煩わされることなく 　　　　　　　過ごされますように＂ 　　　　　　　　“Desearía que Mi Príncipe 　　　　　　　　lo pase sin ser confundido 　　　　　　　　por lo que sea el amor” 89 　＊　老師は 　　　　　王子を困惑の淵に落ち込ませ 　　　　　　　退室してしまいぬ 　　　　　　　　El anciano maestro 　　　　　　　　se retiró dejando al Príncipe 　　　　　　　　al borde 　　　　　　　　de una profunda perplejidad. 90 　＊　王子の 　　　　　心は疑問と謎に包まれ 　　　　　　　疲れ果ててしまいぬ 　　　　　　　　El corazón del Príncipe 　　　　　　　　está agotado 　　　　　　　　lleno de dudas y de misterios. 91 　＊　王子は 　　　　小鳥たちの調べに 　　　　　　愛と悦びの心を感じていたり 　　　　　　　　El Príncipe siente 　　　　　　　　en el canto de los pájarillos 　　　　　　　　amor y alegría. 92 　＊　ある朝 　　　　タカに追われたハトが 窓から 　　　　　　王子の足もとに飛び込み来たり 　　　　　　　　　　　　Una mañana, una paloma 　　　　　　　　perseguida por el halcón 　　　　　　　　llegó por la ventana 　　　　　　　　a los pies del Príncipe. 93 　　＊　王子は 　　　　　ハトの羽毛をやさしく撫でて 　　　　　　　　胸に抱いて憩わせたり 　　　　　　　　El Príncipe 　　　　　　　　acarició suavemente 　　　　　　　　las alas de la paloma, 　　　　　　　　la recogió en su pecho 　　　　　　　　y la hizo descansar. 94 　＊　ハトは 　　　　せつない声で呻きぬ＂私が真心を 　　　　　　捧げたあの方と...“ 　　　　　　　　　　　　La paloma gime 　　　　　　　　con voz triste. 　　　　　　　　“Yo le entregué mi corazón 　　　　　　　　a aquel ser...” 95 　　＊　＂私は 　　　　　別れ別れになりてしまいぬ 　　　　　　　いまは恋の季節なのに＂ 　　　　　　　　“Nosotros 　　　　　　　　nos separamos 　　　　　　　　aunque es 　　　　　　　　la estación del amor” 96 　＊　王子は 　　　　＂恋の季節！“と ハトの言葉を 　　　　　　　繰り返し口に出して言いぬ 　　　　　　　　　　　　El Príncipe repetía 　　　　　　　　las palabras de la paloma: 　　　　　　　　“La estación del amor” 97 　＊　王子は 　　　　ハトに問いぬ＂恋とは 　　　　　どんなものなのか ぼくに教えて＂ 　　　　　　　　　　　　El Príncipe 　　　　　　　　pregunta a la paloma: 　　　　　　　　“¿Qué es el amor? 　　　　　　　　¡Explícamelo!” 98 　＊　ハトは 　　　　　王子に＂お安いことですよ“と 　　　　　　　恋について語りだしぬ 　　　　　　　　La paloma dice al Príncipe: 　　　　　　　　”No es nada difícil”, 　　　　　　　　y comienza a hablar 　　　　　　　　sobre el amor. 99 　＊　＂恋は 　　　　　独りでいれば悩ましく 　　　　　　　二人でいれば最高の幸せに＂ 　　　　　　　　　　　　“El amor 　　　　　　　　cuando se está sólo 　　　　　　　　es un sufrir 　　　　　　　　cuando se está en compañia 　　　　　　　　la mayor felicidad” 100 　＊　＂三人に 　　　　　　なれば 争いと憎しみの 　　　　　　　　絶えないものとなります“ 　　　　　　　　“Cuando son 　　　　　　　　tres en contienda, 　　　　　　　　no cesan 　　　　　　　　ni las luchas 　　　　　　　　ni los odios” 101 　＊　＂恋は 　　　　　他人同士を慕い寄らす 　　　　　　　不思議な魔法の如きもの＂ 　　　　　　　　“El amor acerca 　　　　　　　　a dos desconocidos, 　　　　　　　　es como una extraña magia” 102 　 　＊　＂二人で 　　　　　　暮らせば幸せに 離れ離れになれば 　　　　　　　　嘆きの因に＂ 　　　　　　　　“Si dos viven juntos 　　　　　　　　la felicidad, 　　　　　　　　si se separan 　　　　　　　　causa de dolor” 103 　＊　＂王子様にも 　　　　　　優しい愛情の絆で 　　　　　　　　結ばれたお方がおいででは＂ 　　　　　　　　　　　　¿Mi Príncipe también 　　　　　　　　está unido a alguien 　　　　　　　　por dulces lazos amorosos? 104 　＊　王子 　　　　答えぬ＂ぼくの先生のボナーブン 　　　　　　という老師が好きだね＂ 　　　　　　　　　　　　El Príncipe responde: 　　　　　　　　“Me gusta 　　　　　　　　mi anciano maestro 　　　　　　　　Bonabben” 105 　＊　ハトは 　　　　　説きぬ＂相性のことではなく 　　　　　　　恋の感情のことです＂ 　　　　　　　　La paloma explica: 　　　　　　　　“No es el hecho de congeniar, 　　　　　　　　es el sentimiento del amor” 106 　　＊　＂生命の 　　　　　偉大な神秘、若者には 　　　　　　　陶酔の饗宴となるもの“ 　　　　　　　　　　　　El gran misticismo 　　　　　　　　de la vida, 　　　　　　　　para los jóvenes 　　　　　　　　un ágape embriagador. 107 　　＊　＂外の 　　　　　世界では 祝福された 　　　　　　　恋の季節を謳歌しています＂ 　　　　　　　　En el exterior 　　　　　　　　se felicita exaltando 　　　　　　　　la época del amor. 108 　＊　＂生きとし 　　　　　生けるものは 伴侶を得て 　　　　　　恋を囁き恋に酔い痴れています＂ 　　　　　　　　“Todos los vivientes 　　　　　　　　tienen pareja, 　　　　　　　　susurrando de amor 　　　　　　　　se embriagan” 109 　＊　＂王子さまは 　　　　　お可哀想...二度と巡ってこない 　　　　　　　青春の日々を＂ 　　　　　　　　“Pobre, mi Príncipe, 　　　　　　　　dos veces no vienen 　　　　　　　　los días de la juventud” 110 　＊　‟今日の 　　　　今日まで 恋も知らずに 過ごして 　　　　　　こられたのですか＂ 　　　　　　　　“¿Hoy, 　　　　　　　　hasta hoy, 　　　　　　　　vivístéis sin 　　　　　　　　conocer el amor? 111 　＊　‟この世に 　　　　ひとりの女性も おられないとでも… 　　　　　いとおしい王女さまとか＂ 　　　　　　　　¿No hay en este mundo 　　　　　　　　una mujer o una 　　　　　　　　querida Princesa? 112 　＊　王子は 　　　　　言いぬ＂すこし解ってきたぞ 　　　　　　　こんな塔に暮らしていては“ 　　　　　　　　　　　　El Príncipe dice: 　　　　　　　　“Algo he aprendido 　　　　　　　　aún viviendo en esta torre” 113 　 　　＊　＂恋と 　　　　　いうものが そのような歓喜で 　　　　　　　禁止が悲嘆であるならば＂ 　　　　　　　　“El amor es tal deleite 　　　　　　　　y su interrupción 　　　　　　　　tal tristeza” 114 　　＊　王子は 　　　　ハトに優しく言いぬ 　　　　　＂幸せな鳥君 飛んで行くのだ＂ 　　　　　　　　　　　　El príncipe dice con dulzura 　　　　　　　　a la paloma: 　　　　　　　　“Feliz paloma, 　　　　　　　　vuela con tus compañeros” 115 　　＊　＂君の愛する 　　　　　　相手と青春の日々を 　　　　　　　　心ゆくまで楽しむのだ＂ 　　　　　　　　“Goza 　　　　　　　　con tu compañero 　　　　　　　　de los días de la juventud 　　　　　　　　hasta la satisfacción” 116 　　＊　‟君を 　　　　わたしの話し相手として 　　　　　　閉じ込めておくわけにはいかない＂ 　　　　　　　　“No puedo encerrarte 　　　　　　　　conmigo aquí 　　　　　　　　como compañera 　　　　　　　　de conversación” 117 　＊　‟ここは 　　　　　　決して恋など入ってこない 　　　　　　　　　わびしい塔なのだから＂ 　　　　　　　　“Aquí no entra en absoluto 　　　　　　　　el amor ni nada parecido, 　　　　　　　　es una torre muy triste” 118 　＊　ハトは 　　　　　歓喜の翼を羽ばたかせて 　　　　　　　ダーロ渓谷へと飛び行きぬ 　　　　　　　　La paloma 　　　　　　　　batió con alegría las alas 　　　　　　　　voló hacia el valle del Darro. 119 　＊　小鳥たちの 　　　　　歌は 今まで 王子の孤独を 　　　　　　　癒やしてくれていたり 　　　　　　　　　　　　El canto 　　　　　　　　de los pajarillos 　　　　　　　　suavizaba 　　　　　　　　la soledad del Príncipe. 120 　＊　王子は 　　　　今や 恋 ～ 恋 ～ 恋 と苦い思いを 　　　　　かき立てられていたり 　　　　　　　　　　　　El Príncipe ahora 　　　　　　　　amor, amor, amor, 　　　　　　　　se le levanta 　　　　　　　　un sentimiento amargo. 121 　＊　王子は 　　　　“なんと惨めな青春なのだ‟と 　　　　　　　自分の素性に目覚めぬ 　　　　　　　　　　　　El Príncipe 　　　　　　　　abrió los ojos 　　　　　　　　a su realidad: 　　　　　　　　”¡Qué juventud 　　　　　　　　más desgraciada!” 122 　＊　王子は 　　　　烈火の如く燃える目で 　　　　　　賢者ボナーブンに問いぬ 　　　　　　　　　　　　El Príncipe 　　　　　　　　con unos ojos 　　　　　　　　que despedían fuego 　　　　　　　　pregunta al sabio Bonabben. 123 　＊　＂わたしを 　　　　　こんな世間知らずのままにして 　　　　　　　おいたのは なぜですか＂ 　　　　　　　　　　　　“¿Por qué 　　　　　　　　me habéis dejado 　　　　　　　　sin conocer este mundo? 124 　＊　＂自然は 　　　　　生命の賛歌に酔いしれ 　　　　　　生きとし生けるものは 仲睦まじく‟ 　　　　　　　　“La naturaleza 　　　　　　　　es un himno de placer. 　　　　　　　　Todo lo creado se regocija 　　　　　　　　en su compañera” 125 　＊　＂わたしだけが 　　　　　この恋の悦びから 隔てられている 　　　　　　どうしてなのですか＂ 　　　　　　　　　　　　“¿Por qué sólo yo 　　　　　　　　estoy alejado 　　　　　　　　de la alegría del amor?” 126 　＊　＂恋の 　　　　　歓喜も知らずに 青春の日々を 　　　　　　　無為に過ごさせるのですか＂ 　　　　　　　　　　　“¿Me vais a hacer desperdiciar 　　　　　　　　los días de la juventud 　　　　　　　　sin conocer los arrobos 　　　　　　　　del amor?” 127 　＊　＂わたしに 　　　　　　この恋についてこそ 　　　　　　　　教えてほしかったのに“ 　　　　　　　　　　　　Era precisamente 　　　　　　　　sobre este amor 　　　　　　　　lo que deseaba 　　　　　　　　me hablárais. 128 　＊　賢者 　　　　ボナーブンは 隠しても無駄だと悟り 　　　　　つぶやきぬ＂王子さまは....＂ 　　　　　　　El sabio Bonnaben 　　　　　　　comprendió era difícil 　　　　　　　ocultarlo más, 　　　　　　　murmuró: “Mi Príncipe...” 129 　＊　＂危険な 　　　　　　禁じられし知恵を 　　　　　　　　知りてしまわれたのだ＂ 　　　　　　　　　　“Habéis acabado 　　　　　　　sabiendo 　　　　　　　la peligrosa ciencia 　　　　　　　prohibida” 130 　＊　＂王子さまが 　　　　　　恋の情熱を知りたることが 　　　　　　　　王さまに知られたれば...‟ 　　　　　　　　　　　“Si informaran al Rey 　　　　　　　　que el Príncipe conoce 　　　　　　　　la pasión del amor...” 131 　＊　＂わたしの 　　　　　　首はないものと覚悟しています 　　　　　　　　この命は王子さまに...＂ 　　　　　　　　　　　　“Mi cabeza 　　　　　　　　　habrá de responder 　　　　　　　　　de ello. 　　　　　　　　　Mi vida está 　　　　　　　　　en vuestras manos...” 132 　＊　王子は 　　　　　師の命を守る為 恋の情熱は 　　　　　　　秘めておくことにしぬ 　　　　　　　　　　　　El Príncipe 　　　　　　　　para proteger la vida 　　　　　　　　de su maestro 　　　　　　　　decidió mantener 　　　　　　　　en secreto su pasión. 133 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　彷徨い人　中島孝夫