『源 頼朝』
EL GENERAL YORITOMO
吉川英治作
~七百年の武家社会を築いた
《武将 頼朝》を詠う~


彷徨い人 中島孝夫

スペイン語訳:
アントニオ ドゥケ ララ

篠笛(横笛)『京の夜』
福原一笛 演奏より

《23.老将》

2021年2月24日(更新)

* 頼政も
   源氏の一門として
    華やかに暮らしていたり * 源三位
   頼政は 老骨に風の沁みる
    七十七歳になりぬ


* 頼政は
   ”われは天地に恥じず”と
     二十年間無念を通しぬ ~~ * 源氏を
   惜しむ人々は 頼政を蔑みぬ
    ”家門の生まれ損ないめ” ~~ * 義朝は
   源氏の興亡にのみ 武者ぶるいし
    国家の大本を無視しぬ ~~ * 頼政は
   清盛の国家の大本の信念に
    同調していたり ~~ * 頼政は
   なぜ平治の乱に 義朝を裏切り
    清盛へ味方せしか


* ”伊豆へ
    参られ 配所の頼朝さまに
     お会いなされたであろうな” ~~ * 頼政は
   行家に訊ねぬ”諸国の様子は
    どんなふうでござったか” ~~ * 頼政の
   邸の裏門の戸を 山伏姿の
    行家がたたきぬ ~~ * 頼政は
   平家の栄華の閥の一顧だに
    与えられなかりけり ~~ * 世の人は
   言いぬ”頼政は 平家の栄華に
    随身せし さもしき武将よ”


* ”地方の
    武家たちに 平氏討伐の念を
     固めさせゆえ 立ち帰りたり” ~~ * ”頼朝は
    敢然と真っ先に旗を挙げる
     勇気と力を持ちている” ~~ * ”坂東 木曾
    北陸の諸国にも 事あらばと
     待つ者がどれほどいることか” ~~ * ”北条時政とも
    語らい 彼の地の下固めは
     できておりまする” ~~ * 行家
   答えぬ”わたしの甥の頼朝に
    宮のご密旨を伝えたり”


* 頼政は
   以仁王に 真情を吐き奉りぬ
    ”わたしが起てば” ~~ * 不遇な
   以仁王の心と 頼政の心が
    むすばれていたり ~~ * 三条高倉に
   後白河法皇の皇子
    以仁王の御所がありたり ~~ * あなたの
   お心構えは もうできておるので
    ござりましょうな” ~~ * ”これ以上
    待つものは 何もありませぬ
     あなたが起つまでの事なり”


* 行家の
   遊歴の旅は 諸国の動静を
    見極める為でありき ~~ * 行家は
   頼政より 六波羅打倒の
    計画をあずかりたり ~~ * 行家は
   紀州の住人なりしが 在京中に
    頼政と知り合いぬ ~~ * 頼政は
   真情を吐露し 以仁王の
    ご決意をうごかしぬ ~~ * ”諸国の
    源氏が奮い起ち 腐え朽ちたる
     六波羅を覆すことに”


* 行家の
   旅の間に都では
    大きな破綻が生じぬ ~~ * 行家は
   成人した源九郎義経とも
    ひそかに会いぬ ~~ * 行家は
   奥州平泉に脚をのばし
    藤原秀衡を訪いぬ ~~ * 行家は
   再び美濃、尾張、伊豆、
    甲斐、信濃を 駆けまわりたり