【カルメン】を詠う 　　メリメ作 CARMEN DE PROSPERO MERIMÉ

～　純情な青年が奔放な女カルメンに翻弄され、彼女の情夫を  　　　殺し、ついには カルメンまでも殺してしまう悲しき物語　～

＜護送＞ ESCOLTA

＊　軍曹は 　　　　　重大事件ゆえ 　　　　　　　　監獄へつれて行けとわれに命じぬ　 　　　　　　　　　　　　El sargento consideró 　　　　　　　　ser un caso grave, 　　　　　　　　enseguida me ordenó 　　　　　　　　a prisión la acompañase. 79 　＊　カルメンを 　　　　　　二人の騎兵が左右に挟み 　　　　　　　　　　われはその後を歩きぬ 　　　　　　　　　　　　Dos dragones 　　　　　　　　escoltaban a Carmen 　　　　　　　　a derecha e izquierda, 　　　　　　　　yo detrás de ellos caminaba. 80 　＊　カルメンは 　　　　　　曲がりくねりし長虫小路へ 　　　　　　　　　　さしかかるまで沈黙守りぬ 　　　　　　　　　　　　Carmen, 　　　　　　　　hasta llegar a aquella 　　　　　　　　calle curvada y larga 　　　　　　　　cual una sierpe, 　　　　　　　　guardó silencio. 81 　　＊　カルメンは 　　　　　　ショールを肩まですべり落とし 　　　　　　　　　可愛い顔をちらりと見せぬ 　　　　　　　　　　　　Carmen 　　　　　　　　dejó caer su mantilla 　　　　　　　　hasta la altura de los hombros 　　　　　　　　dejando entrever 　　　　　　　　su lindo rostro. 82 　＊　カルメンは 　　　　　　媚びた顔をわれに向け問いぬ 　　　　　　　　”わたしをどこへ連れてゆくの” 　　　　　　　　Carmen, 　　　　　　　　volviéndose hacia mí 　　　　　　　　con rostro zalamero 　　　　　　　　me preguntó: 　　　　　　　　“¿Y dónde me lleva, 　　　　　　　　señor oficial?” 83 　　＊　われは 　　　　　　やさしき口調でカルメンに答えぬ 　　　　　　　　　”気の毒だが監獄だ” 　　　　　　　　A Carmen, 　　　　　　　　de la manera más dulce posible 　　　　　　　　le respondí: 　　　　　　　　“Sintiéndolo mucho, 　　　　　　　　vas a la cárcel” 84 　＊　カルメン嘆きぬ 　　　　　”わたしどうなるの 　　　　　　　　　わたしを可哀そうだと思って” 　　　　　　　　　　　　Carmen, gritando, 　　　　　　　　“ ¡Qué será de mí, 　　　　　　　　señor oficial! 　　　　　　　　¡ Compadezcase de mí!” 85 　　＊　カルメン声ひそめ 　　　　われに頼みぬ 　　　　　”親切な士官さま　あたしを逃がして” 　　　　　　　　Carmen, 　　　　　　　　bajando la voz, 　　　　　　　　dirigiéndose a mí, 　　　　　　　　me dijo: 　　　　　　　　“ Señor oficial, sea usted gentil, 　　　　　　　　déjeme escapar” 86 　＊　カルメン 　　　　手管を使いぬ 　　　　”女を惚れさせる魔法の石の一片をあげるわ” 　　　　　　　　Carmen, 　　　　　　　　siguiendo con sus mañas, 　　　　　　　　dijo: 　　　　　　　　“ Le daré un trozo de piedra imán 　　　　　　　　para que todas las mujeres le amen” 87 　　＊　カルメン 　　　　ほのめかしぬ 　　　　　”石粉入りのワインは女を無抵抗に” 　　　　　　　　　　　　De manera insinuante 　　　　　　　　Carmen dijo: 　　　　　　　　“ Si echa un poco de polvo de la piedra 　　　　　　　　en un vaso de vino, 　　　　　　　　ninguna mujer podrá resistirse” 88 　　＊　われは 　　　　威厳を持ちて言いぬ 　　　　”ろうやへ行くのだ　今さらどうにもならん”　 　　　　　　　　Yo, 　　　　　　　　con toda seriedad, le dije: 　　　　　　　　“Irás a la cárcel, 　　　　　　　　nada se puede hacer” 89 　　＊　カルメンは 　　　　われの言葉の調子聞き 　　　　　　　われをバスク出身と察したり 　　　　　　　　Carmen, 　　　　　　　　al escucharme 　　　　　　　　enseguida entendió 　　　　　　　　que yo era vasco. 90 　＊　ボヘミア人 　　　　　故国を持たず旅に生き 　　　　　　　　どこの国の言葉でもあやつりぬ 　　　　　　　　　　　　Los gitanos, 　　　　　　　　sin tierra propia, 　　　　　　　　viven viajando 　　　　　　　　y usan todas las lenguas. 91 　　＊　カルメン 　　　　バスク語でわれに言いぬ 　　　　　”なつかしいこと　あなた　くにの方ね” 　　　　　　　　　　　　Carmen 　　　　　　　　en lengua vasca 　　　　　　　　se dirigió a mí: 　　　　　　　　“Nostalgia de mi vida, 　　　　　　　　paisano, 　　　　　　　　es usted del país” 92 　＊　われ 　　　　　わが故郷の言葉を話す 　　　　　　　　カルメンにこころ動かされたり 　　　　　　　　Al escuchar 　　　　　　　　a Carmen hablar 　　　　　　　　la lengua de mi tierra 　　　　　　　　me sentí conmovido. 93 　＊　カルメン 　　　　われに言いぬ 　　　　　”くにの女を助けると思って何とかして” 　　　　　　　　Y Carmen me dijo: 　　　　　　　　“Haga usted algo, 　　　　　　　　por una paisana” 94 　 　　＊　カルメン語りぬ 　　　　　”ナバーラの母のもとに帰る 　　　　　　　　　　　金を稼がなくては 　　　　　　　　　　　　Carmen contaba: 　　　　　　　　“Tengo que ganar 　　　　　　　　algo de dinero 　　　　　　　　para volver 　　　　　　　　al lado de mi madre” 95 　　＊　カルメン 　　　　　われの憐れみをひかんとしぬ 　　　　　　　　”母の頼りは私だけなの” 　　　　　　　　　　　　Carmen, 　　　　　　　　llamando a mi compasión 　　　　　　　　“Mi madre depende 　　　　　　　　sólo de mí”, me dijo. 96 　＊　われは 　　　　　カルメンのうそを見抜けず 　　　　　　　言われたことを信じてしまいぬ 　　　　　　　　Yo no comprendí 　　　　　　　　que Carmen mentía, 　　　　　　　　todo lo que hablaba, 　　　　　　　　yo lo creía. 97 　　＊　われ思う 　　　　カルメンは一生のうちに 　　　　　　　真実を言いたることありしかと 　　　　　　　　A veces pienso 　　　　　　　　si Carmen habrá dicho 　　　　　　　　alguna verdad 　　　　　　　　en su vida. 98 　＊　カルメンの 　　　　　目　口　肌の色を見て 　　　　　　　　　ボヘミア人とわれは思いぬ 　　　　　　　　Mirando 　　　　　　　　sus ojos, su boca, 　　　　　　　　el color de su piel, 　　　　　　　　Carmen era 　　　　　　　　puro gitana. 99 　　＊　われの頭は狂いしか 　　　　　その時は何も気づかずに 　　　　　　　　　おのれを失いぬ 　　　　　　　　　　　　Sólo puedo decir 　　　　　　　　que loco estaba. 　　　　　　　　En ese momento 　　　　　　　　no me daba 　　　　　　　　cuenta de nada. 　　　　　　　　Me encontraba perdido. 100 　＊　われまさに 　　　　　酒に酔いたるが如くに 　　　　　　　　　自制心をも失いたり 　　　　　　　　Sin duda 　　　　　　　　estaba como borracho, 　　　　　　　　había perdido 　　　　　　　　el dominio de mí mismo. 101 　＊　カルメン 　　　　バスク語で言いぬ 　　　　　”私がお前さんを突くから転んでおくれ” 　　　　　　　　Carmen, en vasco, 　　　　　　　　a mí se dirigió: 　　　　　　　　“Yo a usted empujaré, 　　　　　　　　sea bueno y caigase...” 102 　＊　カルメン 　　　　　バスク語で話しつづけぬ 　　　　　　　　”新米兵士には捕まりませんよ” 　　　　　　　　Carmen, en vasco, 　　　　　　　　continuó diciendo: 　　　　　　　　“No serán estos pipiolos 　　　　　　　　los que me agarren...” 103 　　＊　われは 　　　　　命令も規律も何もかも忘れ 　　　　　　　　ばかなことを口に出しぬ 　　　　　　　　Yo, estúpido de mí, 　　　　　　　　olvidándome de las órdenes 　　　　　　　　y de todas las normas 　　　　　　　　murmuré una estupidez. 104 　＊　”やってみな 　　　　　　聖母さまのご加護を” 　　　　　　　　われカルメンの逃亡に手を染めぬ 　　　　　　　　　　　“Hagalo usted 　　　　　　　　y que la Virgen le ayude”, 　　　　　　　　me impliqué 　　　　　　　　en la huida de Carmen. 105 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　彷徨い人　　中島孝夫

---