『血と砂』 『Sangre y Arena』 Blasco Ibañez 
ブラスコ イバニェス 永田 寛定 訳

~彷徨い人 中島孝夫~
2018年8月15日更新
<6.いのち拾い>
SALVAMENTO







 *ナショナルは
    顔をハンカチに隠しすすり泣く
       カルメンに動揺しぬ

        El Nacional
        estaba turbado ante Carmen
        que no dejaba de sollozar
        escondido el rostro tras un pañuelo.
255






 *ナショナル
   弁明しぬ“ ラ・リンコーナに一緒にと
      ガリャルドに頼まれて “

            El Nacional se disculpa:
        “ Gallardo me pidió
        fuera con él
        a la Rinconada”

256






 *“ 出かける時
     車に乗ると素敵な別嬪の
        貴婦人が居るんでさ“

        “A la hora de salir,
        al subir al coche,
        había una bella dama.”
257






 *“ 侯爵の
     お姪御で ガリャルドの贔屓筋だで
       ご機嫌をそこねられねえ ”

        “Sobrina del conde,
        favorecedora de Gallardo,
        no podía disgustarla.”
258






  *“荘園でも
    何でもなかったね 夜は別れて寝るし
      きちんとしていたもんでさ“







 * カルメン
    涙声でさえぎりぬ
     “わたしの家にまで連れていって“







 * “その女
     あたしのベッドに寝たんですよ
      あたしは何もかも知っているのよ“







 * “これほど
      無茶な男はセビーリャ中
         捜してもいませんわよ“







 * ナショナルは
    カルメンをなだめ言いぬ
    “あの貴婦人は気まぐれの変わり者でね”







 * カルメンは
     ナショナルの言いしことに
        耳をかさず泣きつづけたり







 * カルメンは
    ナショナルに頼みぬ
     ”何もかも本当のことを言って“







 * ナショナル
     答えぬ“両人は仲良しの
         友達の関係ですよ“







 * カルメンには
    己が身に加えられし冒瀆であり
      侮辱でもありたり







 * カルメン
    言いぬ“あの女にうちの人が
      眼をつけた時から“







 * “わたしは
     思惑を見抜いていたのよ
      女からダイヤの指輪まで貰って”







 * “二人は
    夫婦気どりで馬に乗り
     世間の眼を気にせず出かけたりして“







  * “うちの人は
     あの女に首ったけで
        腑ぬけになっていたのよ“







 * “あの女
     セビーリャに飽きうちの人に
        挨拶せず往ってしまったの“







 * “うちの旦那は
     ああした身分の女に
      可愛がられて鼻高々だったの“








                             彷徨い人 中島孝夫