『 アルハンブラ物語~4 』を詠む 中島孝夫 ワシントン・アービング 著 平沼孝之 訳 『 CUENTOS DE LA ALHAMBRA-4 』 Washington Irving スペイン語訳:アントニオ ドゥケ ララ |
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≪アルハンブラ物語~4≫ ~二体の思慮深いニンフ像の伝説~ ALHAMBRA -4- |
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* アルハンブラの 人々は 聖ヨハネの 宵祭りの夜を 待ちていたり * 人々は ヘネラリーフェ離宮の裏手に聳える <太陽の山>に登り行きぬ * 人々は 山の平坦な頂で <夏至の勤行>をするのである * サンチカは 十二歳ほどの 小柄で 黒い目をした女の子なり * サンチカは 数人の友だちと 山上の 要塞跡で遊んでいたり * サンチカは 黒玉を精巧に彫り込みた 小さな<手>を見つけぬ * サンチカは 要塞跡から走りきて 黒玉の「手」を母親に見せぬ * 黄褐色の 軍服を着た老兵士が この「手」を検分しぬ * 老兵士 言いぬ"これは大変な 霊力のある魔除けです" * ‟これを 見つけたこの子は 幸せものです 幸運が訪れますよ" * サンチカの 母親はこの黒玉の「手」を 娘の首に掛けてやりぬ * ひとりの 老婆語りぬ"この山の地中には モーロ人の宮殿がある" * "ボアブディルと イスラム教徒の全宮廷人が 魔法にかけられている" * サンチカは 息をひそめて 老婆の物語に 耳を傾けいたり * サンチカは 好奇心が強く モーロ人の 要塞跡を見たいと思いぬ * サンチカは 山の端の要塞跡を目指し 独りで歩いて行きぬ * サンチカは 廃墟の中を歩きまわり 崖淵に小さな洞を見つけぬ * 武具の音 トランペットの響が 洞の底より聞こえきたり * 得体の 知れぬ軍勢が 戦場へ 赴く準備をしているが如き * サンチカは 震え上がりて その場より 一目散に逃げ出したり * サンチカは ヘネラリーヘ離宮の 庭園の脇を走りぬけぬ * サンチカは アルハンブラの城塞に通じる 並木道にたどり着きぬ * 真夜中を 告げる鐘の音が アルハンブラの 望楼より響き来たり * サンチカは 木立の下のベンチに腰を下ろし 大きく息をつきぬ * モーロの 騎馬隊が あふれ出る如く 山道から姿を現しぬ * 騎馬隊は 音ひとつ立てず 兵士の顔は 死人の如く蒼ざめていたり * 冠を 戴きた貴婦人が 悲哀を漂わせ 馬に揺られていたり * 色とりどりの ターバンを巻いた廷臣たちの 行列が近づき来たり * 王冠を 戴きたチコ王が 黄白色の馬に乗りて現われぬ * サンチカは 王の行列の行進を 驚嘆の眼で見つめいたり * サンチカには 行列が魔術による 幻の像だと解りていたり * サンチカは 首に掛けた魔除けの「手」を 思い出し勇気を甦らせたり * サンチカは ベンチより立ち上がり 行列の後について行きぬ * 騎馬隊は 軍旗をひるがえし「裁きの門」を 粛々と通り過ぎ行く * 隊列が かき消え 塔の基石の下へ 降りる道が現われぬ * サンチカは 奥まで行こうと決心し 地下の道を進み行きたり * サンチカは 山の真下の地下に築かれし 大広間にたどり着きぬ * 白ひげを 垂らした老人が 長椅子に座り 居眠りしていたり * ダイヤの 冠帯と真珠の髪飾りを付けた 美しい乙女がいたり * 乙女は ゴート族の王女で アラビアの魔術師に 閉じ込められていたり * 王女は 昔のスペインの衣装を着て 銀の竪琴を奏でいたり * 王女は 魔法のかかりた広間に 現世の人がいるのに驚きぬ * 王女は 竪琴の手を止め サンチカに尋ねたり "今夜は宵祭りなの?” * サンチカが "そうよ"と答えれば 王女言いぬ "それで魔法が途切れたのね" * "私は 魔法により 閉じ込められているの あなたの首にかけた魔除けで...." * "私の 縛めに触れてください そうすれば 今夜だけは自由になれる" * サンチカは 黒玉の「手」を 王女の 「金」のベルトに押し当てぬ * 金の 鎖が たちまち金属音をたてて すべり落ちぬ * この音で 老魔術師は目を覚まし 眼をこすり始めたり
* 王女は 素早く竪琴の弦に指を走らせ 静かに奏で始めたり
* 老魔術師は ふたたび眠り始め 握りた 魔法の杖が揺れ出しぬ
* 王女は サンチカに言いぬ ”その杖に あなたの魔除けの<手>をかざすの“
* 杖は 地面にころがり 老人は 長椅子の上で寝入り始めぬ
* 王女は サンチカに言いぬ"あなたの魔除けで 魔術の世界を通り..."
* "在りし日の 栄光のアルハンブラ宮殿を 見ることができるのです"
* 二人は 洞窟の入り口まで戻り 「裁きの門」を通りぬけぬ
* 城塞内にある 「アルヒーべスの広場」へと 二人は出でたり
* 二人は 「コマレスの塔」の地下室へ通じる 入口にたどり着きぬ
* この門の 両側にあるニンフの座像の前で 王女は足を止めぬ
* 王女は サンチカに語りぬ"このニンフたちは モーロの王が隠した..."
* "宝を 見張りているの この一対の ニンフの視線が交わる所に..."
* "宝が 隠されているの あなたの 魔除けにより 宝を取り出せます"
* "あなたが 宝を手に入れ ミサをあげれば 私は魔術から救われます"
* 王女は 「リンダラーハの園」で 天人花の小枝を サンチカの髪に挿しぬ
* 王女 言いぬ"これを今夜の形見としましょう 私は魔法の広場に戻ります"
* "私のために 御ミサをあげてね"と言い 王女は闇に紛れてしまいぬ
* サンチカは 家に帰り 天人花の小枝を 枕の下に入れ眠りぬ
* 翌朝 サンチカは 父サンチェスに 天人花の枝を見せ言いぬ
* "モーロの 王女様が 私の髪に 挿してくれた天人花の枝よ"
* サンチェス 目をまるくしぬ 天人花の 枝の茎は純金製で…
* 葉の 一枚一枚は つややかに煌めく エメラルドなりき
* サンチカは 自分の身に起こりた 昨夜の出来事を父親に話しぬ
* サンチェスは 二体のニンフ像のある 廊下の場所へと行きぬ
* サンチェスは 二体のニンフの眼差しが 交わる壁の一点を見極めぬ
* サンチェスは その壁の一点に 目印をつけて 地下室を出でたり
* 夜がふけ サンチェスと サンチカは 二体の ニンフ像のある広前へ出掛けぬ
* サンチェスは 目印をつけておきし 壁の部分を 壊しはじめたり
* 隠し穴の中に 磁器の大瓶が 二つ並んでありたり
* サンチェスが 大瓶を抱え 引き出さんとすれど びくともしなかりけり
* サンチカが 無邪気な手を添えた途端 大瓶は動き出したり
* サンチェスは サンチカの手をかりて 二つの大瓶を取り出しぬ
* 大瓶には モーロ人の金貨、金細工、 宝石が詰まりていたり
* サンチェスは 現場の壁を元通りにし 二つの大瓶を自宅に運びたり
* サンチェスは 財宝を手に入れ 一夜にして 大金持ちになりぬ
* 数年後 六頭立ての馬車が マラガの大通りを進み来たり
* 馬車には 貫禄満点の紳士... サンチェスが乗りていたり
* サンチカが マラガの貴族に嫁ぐため 式場に赴くところなり
* 馬車には 花嫁と花婿 その近親者も 乗りていたり
* サンチカは 侯爵家の令嬢かと思えるほど 優雅に成長していたり
彷徨い人 中島孝夫 |
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~ 終 ~ |