『 アルハンブラ物語 ~ 3 』を詠む 中島孝夫 ワシントン・アービング 著 平沼孝之 訳 『 CUENTOS DE LA ALHAMBRA-3 』 Washington Irving スペイン語訳:アントニオ ドゥケ ララ |
2021年6月5日(更新) |
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ラス・インファンタスの塔(Torre de las infantas) |
*三人の王女たちの住む塔(ラス・インファンタスの塔)は、アルハンブラ宮殿の本殿とは少し離れ ていて、アルハンブラの丘陵地の上部を囲む外壁で結ばれ、塔の反面は城塞の方へ向いていて、 構内がよく見え、塔の下には、草花が咲き乱れる花園があった。塔の反対側は、城塞構内と ヘネラリーフェ離宮とを分かつ、深い木々の繁る峡谷に向いていた。 |
≪アルハンブラ物語~三人の美しい王女の伝説≫ ~<ラス・インファンタスの塔>~ ALHAMBRA -3- LA LEYENDA DE LAS TRES HERMOSAS PRINCESAS |
* 王は 王女たちを アルハンブラの塔の ひとつに住まわさんとしぬ * 王が 王女たちと 顔を合わすのは 三年ぶりのことなり * 王は 王女たちが あでやかな乙女に 変貌しているのに驚きぬ * サイーダは 長身で容姿にすぐれ 威厳をも備えていたり * ソライダは 中背で宝石の如き 美しさを持ちていたり * ソラハイダは 背が低く 恥ずかしがり屋の 気後れ屋なり * 王は 花のように咲きほころんだ 王女たちを誇らしく眺めたり * 王女たちは それぞれに魅力を備えた 乙女に成育していたり * 王の心に 占星術師の予言が 重くのしかかりきたり * 王は つぶやきぬ"三人の姫! 揃って結婚適齢期を迎えたり" * "これからは 姫たちに見張りをつけて 日々護らねばならぬとは!“ * 王女たちは グラナダへの帰還路を 王の傍らを騎馬で進みぬ * 王女たちは 美しい乗用馬に乗り 顔はベールで隠していたり * 王女たちの 護衛隊は捕虜を連行する 部隊に追いつきぬ * 部隊の 兵士たちは 地にひれ伏し 捕虜にも ひれ伏すよう命じぬ * 捕虜の中に 王女たちが 望楼より見し 三人の騎士がいたり * 三人の 騎士たちは 膝を屈さず 王の一行を見つめていたり * 王は怒り 新月刀で 騎士のひとりに 一撃を加えんとしぬ * 父王に 王女たちは 必死に取りすがり 三人の命乞いをしぬ * 王は 新月刀を 振りかざしたまま 立ち往生してしまいぬ * 捕虜 連行隊の将が 王の足下に ひれ伏して言いたり * "王様 どうか こらえてくださいませ これら三名のスペイン騎士は" * "名のある 名家の出であり 莫大な身代金が 手に入りまする" * 王は 言いぬ"そやつらの命は 助けてつかわすが 不遜は許せぬ" * "ベルメーナスの 塔の牢獄へ引き立て 苦役を課すがよい" * 三人の 王女の被りいたベールは 混乱の中でずれ落ちぬ * 王女たちの 光り輝く美しき顔立ちが あらわになりたり * 三人の 騎士は たちまちに 美しき王女たちのとりこになりぬ * 騎士たちの 恋心に 命を救われた 感謝の気持ちも加わりぬ * 王女たちも 武勇と名家の騎士たちに 恋心をつのらせたり * 王女たちは 隊列を立て直し 騎馬隊の中にいたり * 王女たちは 白馬に乗り 振り返りては 物思いに沈みぬ * 三人の 騎士は 牢獄へ繋がれるために 引き立てられて行きぬ * 王女たちに 贅を尽くせし豪奢な 住まいが用意されていたり ~ラス・インファンタスの塔~ * 王女たちの 住む塔は アルハンブラ宮殿の 本殿とは少し離れていたり * 王女たちは 優雅な環境にもかかわらず 悄然とし 憂いに沈みぬ * 王は 王女たちに ありとあらゆる高価な 装身具を買い与えぬ * 王女たちは 美しく着飾りても 顔は蒼ざめたままなりけり * 王は 乳母に 王女たちの憂いの原因を 探り出すよう頼みぬ * 乳母には 王女たちの憂いの原因が 何かはよく分かりていたり * 乳母は 知らぬふりをして 王女たちに 心の秘密を告白させんとしぬ * 乳母は 語りぬ"昨夜 あの三人の スペインの騎士の方々が" * “一日の 労役を終えられ 休息をなさっておられたり" * "お一人が ギターを引かれ お二人が お歌いになられて" * “ギターも 歌も素晴らしく 故国の歌を聞きて 私は胸がつまりました“ * “あのように 高貴で立派な方々が 労役のくびきに繋がれて..“ * “おいたわしい!” 心優しい乳母は 思わず 涙をこぼしぬ * 長女が 乳母へ言いぬ"三人の方々を ひと目見る機会をつくって!" * 次女は "音楽を聴けば すごく元気に なれそうな気がする"と言えり * 内気な 三女は 何も言わず 乳母の首に ひしと しがみつきぬ * 乳母は 声を大きくして言いぬ "何ということを おっしゃるの!‟ * 王女たちは うら若い女心の情熱を 乳母にぶつけたり * 乳母は 思いぬ ~私は生粋のスペイン人 心の奥ではキリスト教徒~ * 乳母は 王女たちの願いを 叶えてやろうと 思いを巡らしぬ * 乳母は 騎士たちを 監視している 隊長に金貨を握らせぬ * 乳母は 隊長に頼みぬ"労役の合い間に 息抜きと 見せかけて" * "王女様たちの 塔の下で ギターを弾かせ 歌わせて欲しいの‟ * "王女さま達は 塔の窓越しに ギターと 歌を 聴くことができるわ‟ * 翌日 騎士たちは 塔の下で ギターに合わせ 恋歌を歌いぬ * 王女たちは 塔のバルコニーより 歌声に耳を澄まし聞き入りぬ * 恋歌の やさしい調べが 王女たちの胸に 深く沁みとおりぬ * 王女たちに 音楽が 不思議な 癒しの効果を発揮したり * 王女たちの 頬はバラ色に 瞳は星の如く きらめき始めぬ * 王女たちは バルコニーから 顔をのぞかせ 花々を下に落としぬ * 王女たちは 花言葉を介して 思いの丈を 伝えんとしたり * この交情は 王女たちの慕情と情熱を 強めることになりぬ * 王は 王女たちの心に もたらした 劇的な変化に驚きぬ * 数日して 騎士たちは 塔の下に 姿を見せなくなりぬ * 乳母は 事の次第を 探りに出掛け 困惑して戻りきたり * 乳母は 叫びぬ"騎士たちの一族が 身代金を払いました" * "騎士たちは グラナダへ お下りになり 故国へ帰るとのことです" * 三人の 美しい王女たちは この報せを聞き絶望したり * 乳母は 悲しむ王女たちを慰めぬ "諦めて忘れましょう" * "これが 世の常です あの方々のことは 心の外へ追い払いましょう" * 王女たちの 悲しみは痛々しく ますます 落ち込むばかりなり * 乳母は 監視隊長を味方に引き入れ 逃亡計画を練り上げぬ * 乳母は 王女たちに告げぬ"スペイン人の 騎士たちは脱獄します" * "騎士たちは 王女さま達と 一緒に コルドバまで逃げ延びます" * "騎士たちは 王女さまたちに 自分らの 妻にと願っています" * 長女は 計画に賛成し 次女 三女も 行動をともにと決意す * 決行の夜 乳母は縄ばしごの端を バルコニーに結びつけぬ * 乳母が 最初に降り 長女と次女が 胸を高鳴らせ降りてゆきぬ * 末の王女は 思い惑い ためらい震え出し 立ちすくみぬ * 彼女は 縄ばしごを バルコニーから投げ捨て 言いぬ"私は行かないわ" * "お姉さまたち 祝福されますように!" 二人の王女は 嘆き悲しみぬ * 巡回兵の 足音を耳にし 王女たちは 地下道へ飛び込みぬ * 地下道の 出口には 三人のスペイン騎士が 一行を待ち受けていたり * 末の王女の 恋人は 彼女の来ない経緯を聞き 悲嘆にくれぬ * 二人の 王女は それぞれ騎馬の恋人の 背後に跨りたり * 乳母は 監視隊長の背後に跨り 一行はコルドバを目指しぬ * 王女たちの 逃亡が発覚し 狼煙火が 高々と上がりぬ * 一行は 街道から 馬ごと急流に乗り入れ 水中を進みぬ * 王女たちは 難儀な旅を重ね ついに 古都コルドバの地を踏みぬ * 囚われの 騎士たちが 無事に帰還したので コルドバ中が沸き立ちぬ * 騎士たちは いずれも 高位の貴族の 子息でありしゆえなりけり * 二人の 美しき王女は 教会に 温かく迎えられぬ * 二人は 正式な手続きを経て キリスト教徒になりたり * 二人は 恋する騎士の花嫁となり 幸せに暮らしけり * 乳母は 激流に押し流されたるも 下流で漁師に救われぬ * 末の王女は 孤独な身を嘆きつつ 若くして身罷りぬ 彷徨い人 中島孝夫 |
~ 終 ~ |